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いよいよ間近に迫ったFIFA女子ワールドカップ2015カナダ大会の組み合わせ抽選会が、カナダのオタワで12月6日正午(現地)から行われる。日本時間では、時差14時間を足して、12月7日午前2時となる。抽選会の模様は、FIFAのオフィシャルサイトでライブストリーミングとして全世界から見ることができる。カナダのスター選手、シンクレアなどが参加するという。

現地観戦を計画している方は、この日を境にチケット販売の段階が「第2」に変わることにも注意。1試合ごとの販売はまだなされないが、各カードの日付と場所が決まることによって、ある程度、購入者が増えることが予想される。確実に見たいという人は、思い切って次の第2段階で買っておくのもいいだろう。[関連: カナダ大会のチケット、日付変わって11日1時から発売開始]

なお、CNNが今週伝えたところによると、人工芝問題について選手間の直接の話し合いを避けてきたFIFAが、この抽選会を機会に初めてその場を設けることに同意したという。こちらの動向もチェックしておきたい (CNN Turf war: FIFA set for showdown talks with top stars)。

人工芝問題に少し動きがあった。

これまでの経過
  1. 女子ワールドカップカナダ大会の人工芝問題 (第一回あらすじ) 8月23日
  2. カナダ大会の人工芝問題 2~選手達が反対する理由、あるいは反対しない理由~ 9月8日

FIFAは火曜日から団体でカナダ大会の開催予定地を巡る視察ツアーを始めた。最初に訪れたのはオンタリオ州のオタワにあるTDプレイススタジアム。FIFAの派遣団は、カナダのクラブチーム、オタワ・レッドブラックスの練習する中、スタジアムに降り立って、人工芝を注意深く観察したという。設備なども含めて総合的に視察し終えたあと、Tatjana Haenni (FIFA大会課長補佐兼女子大会委員長※FIFA’s deputy director of the competitions and head of women’s competitions)が人工芝開催について意見を求められ、こうコメントした。

「決定が変更される予定は無い。人工芝開催がフェアであるかについては何とも言えないが、決まった事は決まったことだ」

 続いて、このHaenni氏(※写真上)のコメントと並んで、カナダサッカー協会会長であるピーター・モントポリ(※Peter Montopoli、下写真の左から2番目)氏のコメントも報じられている。彼は選手たちが求めている、FIFA・カナダサッカー協会との対話が行われる可能性はほとんど無いと述べたという。曰く、「対話ということに関して言えば、大会が人工芝の上でで行われることについては長い間そういう理解があったでしょう」と述べた。

 確かに、カナダ大会開催決定から、選手達が弁護士を立てて公式に反対声明を掲げるまでには、ある程度長い期間があった。モントポリ氏はここを選手側の弱点として突いている。ところで、モントポリは人工芝問題をさておいた上で、カナダ大会の成功を以下の様に大きく意気込んでいる「もし、私たちの目標である150万人の観客を集められれば、カナダでの単一スポーツにおける過去最大のスポーツイベントとなり、男子ワールドカップを除いた最大のFIFAの大会になる」(※参考として今年行われたブラジルワールドカップの動員数は、FIFAによると、約300万人)。

 しかし、FIFAにも人工芝開催と決めたからには最善を尽くす姿勢が見られる。視察団は各スタジアムのグラウンドの表面を調査するために、専門の独立コンサルタントを雇って開催予定地を巡ることになっているのだが、この人物は、モントポリ氏によれば、2007年のU-20男子ワールドカップカナダ大会の際にも調査に当たった経験のある者だと言う。さらに、考えを変えるつもりが無いのにも関わらず、なぜわざわざコンサルタントを雇ったのかと聞かれたHaenni氏は「人工芝のクオリティは多くの人が関心を持っているからです。人工芝と言えど様々です。古いものも新しいものもある。いくつかテストをすることによって、それらの質を分類できます。どういう芝が良い芝なのかを知る助けになります」と答えた。人工芝で開催するからにはできるだけ良い芝で、という姿勢は一応見せている。

 ちなみに、オタワは12月6日に組み合わせ抽選会が行われる場所である。


参照記事


筆者より

並行するようにして、選手達は弁護士団と公式に裁判を起こすことになったようです(参照: Equalizer -“Players officially file lawsuit against FIFA, CSA over artificial turf at 2015 Women’s World Cup”)。7月の時点では、弁護士を立ててFIFAとの公式な会談を要求するという、選手からの「警告」段階に留まっていましたが、その時に「法的手段も辞さない考え」であったのをついに実行した形に成ります。

※1. FIFAのHaenni氏は「代替案は無い」と言っていますが、実は1つ提案されているものがあって、それが本来第3回で扱う予定の内容でした。これは持ち越しあるいはボツになります。※2. 訳の部分は必ずしも厳密になっていない場合がありますので、ご了承ください。

 

※この記事は女子ワールドカップカナダ大会の人工芝問題 (第一回あらすじ)の続きです。後からでも構わないので第1回もお読みになることをお勧め致します。


選手達がワールドカップの人工芝開催に対して、なぜ反対の声を上げているのかを疑問に思っている人もいるかもしれない。というわけで、第2回である本記事では、選手達が人工芝の使用に反対する理由を、実質的な被害と男女差別的な側面の2つに分けて取り上げることにする。

実質的な被害

選手らが人工芝に大きく抗議していることが明らかになった時、筆者の頭にすぐに思い浮かんだのは、オーストラリアでのリーグを終えたアンゲラーが、アメリカに渡って間もない時期(2014年1月)にTwitter上にアップした一枚の画像だった(下の写真左)。この写真とともに、「人工芝が信じられないほど身体に良い」もので「カナダでプレーするのが待ち遠しい」と皮肉を込めてアンゲラーは語っている。

この写真がショッキングなものであったため、筆者はこれ以降、選手達のツイートを注視した。すると、シアトル・レインのキャプテン、キーリン・ウィンターズも7月に同じように焼けた跡を公開した。一つ前の記事でコービー・ブライアントが紹介したシドニー・ルルーの写真も然りだ。

思い切ったプレーをすると怪我をする。

この点に関しては、ワンバックがニューヨーク・タイムズのインタビューで応えたことにも少し関連してくる。ワンバックは直接火傷の恐れを口にしないが、ファンペルシーがブラジル大会で見せたようなダイビングヘッドを跳ぶことはないと口にする。その理由は、ファンペルシーらがプレーした天然芝とカナダ大会の人工芝のフィールドでプレーすることは全く別のことだからだという。また、ワンバックのゴールパフォーマンスと言えば、コーナーフラッグまで行って、両膝ですべるのがお決まりの喜び方があるが、これも人工芝では見る事ができなくなるだろうとニューヨークタイムズは書いた。

別の被害として、BBC取材に応えた元イングランド代表のホワイトは、「人工芝だと試合のテンポが悪くなる。ボールの跳ね方はまばらだし、選手が怪我することも増える」と述べている。FIFAはプレーのクオリティを保つ為の人工芝の基準を厳格に定めてはいるものの、実際にプレーする選手にはまだ違和感があったようだ。

他に、ワシントン・スピリット所属でアメリカ女子代表経験もあるヤエル・エイヴァーブッシュは、9月6日にニューヨーク・タイムズに寄稿した文章のなかで、人工芝のマイナスの側面について網羅的に語っている。芝生による火傷に加えて、プレーした後の疲労がたまりやすいこと、表面温度が高温になること(例えば、NWSLのプレーオフ準決勝、FCカンザスシティとポートランドの試合は、人工芝上で行われたが、その時のピッチ表面の温度は、摂氏70度まで上がっていたことが公式にではないが一部報告されている)などで、また、付随して選手がスライディングなどの激しいプレーをためらってしまうのではないかということを心配している。

ワールドカップでのスライディングといえば、2011年の決勝戦でアレックス・モーガンのペナルティエリア内の進入を阻止した岩清水梓の延長戦後半の決死のスライディングが思い浮かぶ。あのような神がかったプレーが人工芝であることによって抑圧されてしまうことになるなら、それはとても残念なことだ。


男女差別的な側面

今回の問題が、これまで述べてきたようなピッチ上の実質的な被害にとどまらないのは、男女差別的な側面を含んでいると選手達が強く認識していることによる。先ほど登場したワンバックは、下に引用したツイートのように、#genderequality(男女平等)というハッシュタグを付けてツイートで抗議をしている。


何故差別になるのかについては、前回とりあげた時におおかた説明してしまった。A代表レベルでのワールドカップが人工芝のスタジアムで開催されたことは今までに無い。今回の女子ワールドカップ2015カナダ大会が初めてのことになる。前回からの引用になるが、

選手達にとっては、人工芝を推進して行きたいFIFAがカナダ大会を人工芝を利用した大会のモデルケースとして利用しようとしているのではないかと映る。ホワイト曰く、「女子が実験用モルモットであるかのよう」


とはいえ、全ての選手が問題に思っているわけではない

以上、多くの選手達が反対している例を取り上げたが、まったく違う意見の選手もいることを最後に指摘しておきたい。

アーセナル・レディース所属でイングランド代表のケイシー・ストーニーだ。8月28日に公開されたBBCでの連載において、以下のように語っている。ストーニーによれば、A代表よりも一足早くカナダのU-20ワールドカップにおいて人工芝上でプレーしてきたユースの選手達に話を聞いたところ、ボールの動きがとても早くそれが困ったことになることはときどきあったが、特に問題は無かったという。

ストーニーも、「そもそも普段から人工芝上でトレーニングをしていて、FA WSLのリヴァプールとエヴァートンの本拠地であるHalton Stadiumは人工芝だから慣れている」と付け加えている。ストーニーの人工芝問題に対する姿勢としては、FIFAを変えようとするよりも、自分たちを人工芝に順応させようというものだ。


次回予告

FIFAからの応答やっと来るなどの急な展開が予想されるので何とも言えないのですが、次回は「開催まで1年切ってるけど、スタジアムの使用は結局どうすりゃいいのか」ということを扱う予定です。選手達はボイコットするつもりは無いと述べています。開催はされることはされる。ならば、できる限り良い形で開催したい、そのポイントはどこなのか。


変更履歴

2015, 6/8 : 日本語の誤りを訂正(アーセナルLでイングランド代表の -> アーセナル・レディース所属でイングランド代表の)。

 

 人工芝のスタジアムが、初めてワールドカップで使用される予定の2015年カナダ大会。ワンバックを含む世界のトップ選手達は人工芝スタジアムの使用に対して抗議をしつづけてきた。チケットの一般発売まで約1ヵ月と迫った時期に、抗議に対して沈黙を続けていたFIFAとカナダサッカー協会に対し、選手らは法的手段も辞さないとして法律専門家を通じて抗議の意見書を送った。

 これが大きく取り上げられることになった。その後、元イングランド代表のホワイトがBBCの取材に、アメリカ代表のワンバックがニューヨークタイムズの取材に応じ、ますます耳目を集めることになった。ボールの転がるスピードやスライディングの際の摩擦による火傷、あるいはバウンドがまばらになるなどの実質的なプレー面の被害だけでなく、選手は「人工芝開催の問題はジェンダーの問題だ」と主張している。

 FIFA会長のブラッターは、「人工芝はモダンフットボールの未来だ(Artificial Turf is the future of modern football)」と語っている。その理由として主に、世界中の人々が気候にとらわれず平等にプレーできる、ということが挙げられている。選手達にとっては、人工芝を推進して行きたいFIFAがカナダ大会を人工芝を利用した大会のモデルケースとして利用しようとしているのではないかと映る。ホワイト曰く、「女子が実験用モルモットであるかのよう」

 この抗議は徐々に波及して行き、現在ではサッカーというスポーツの垣根を超えて支援が広がっている。例えば、NBAのスター選手でフォロワーが5百万人以上のコービー・ブライアントは、Twitterでシドニー・ルルーの芝生で焼けたすねの画像を「アスリートを守れ(#ProtectTheAthlete)」というハッシュタグ付けて「拡散」させた。

現在まで起きていることをまとめると以上のようになる。今後新たなニュースがあるとすれば、FIFAかカナダの協会からの回答だろう(そうであることを願いたい)


以上が8月22日までの概要です。第二回はワンバックのNYTインタビューとやけどについて、第三回は開催スタジアムについての予定です。

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